日本車の中で、特別な思いを感じる代表的なエンジンと言えば、このS20です。
どこに特別を感じるかと言えば、その生い立ち、系譜でしょうか。
元はレーシングエンジン。
この事実だけで、特別な思いを抱きます。
そんな風に思われている方は、今でも多いのではないでしょうか。
私がこのエンジンを知ったのは、小学5年(昭和51年)の頃、
本屋さんで立ち読みをした自動車雑誌で知った記憶があります。
その時は、すでにS20エンジンは、過去のエンジンでしたが・・
他のエンジンとは別物。
私の頭の中に、そうインプットされて、今だにその思いは消えていません。
発表発売当時の雑誌(バックナンバー)の記事を見て、期待を下回る内容が多かったことに、ショックを受けた記憶もありますが・・
しかし、その後、車のことが少しわかりだしてきたときに、その理由も自分なりに納得し、より一層、このエンジンに魅かれたことも思い出です。
このエンジンの素性はレーシングエンジンであることを理解できれば、市販向けに変更された影響はあるものだと・・
とにかく別格、別物である、神格化された思いが、このエンジンにはあります。
勝つための、4バルブ DOHC・・
プリンス時代のS54型スカイラインの国内ツーリングカーレースの活躍は当時、有名なところですが、レギュレーション変更などの影響もあり、その後の劣勢を回避すべく、純プロトタイプレーシングカーR380に搭載されていたGR8型エンジンをベースにしたエンジン開発がはじまり、完成したのが、S20型エンジン。
そしてそのエンジンは3代目 C10型 スカイライン(ハコスカ)に搭載されることになります。
このエンジン開発の目的は、全日本ツーリングカー選手権に勝利するため・・
レーシングエンジンである素性を生かしたS20エンジン。
その後、S20を搭載したスカイラインGT-Rは、通算50勝を飾ることになります。
勝つための技術の投入・・その特別感が今だ絶えないS20の魅力なのだと思います。
そんなS20エンジンですが、思う存分感じる機会がありました。
日産ヘリテージコレクションです。
ここでは、歴代の日産車と会うことができます。
平日であれば、エンジン音を聴けるイベントが開催されています。
私は、運よくS20サウンドを味わうことができました。
完調のS20のエンジンサウンドから、あらためてレーシングエンジンであると思えたことは、私にとって何よりの収穫でした。
日産の匠が整えたS20エンジンは、レーシーなサウンドを響かせていました。
「いい音ですね」と私が問いかけると、ちょっと調子悪くて、朝にプラグをすべて交換したばかりなどと、笑顔で説明してくれました。
今日の調子はいいよ・・と。
今回、そのエンジン音を披露してくれたのは、GT-Rではなく、Z432でした。
同じS20エンジンを搭載したフェアレディZ (S30)です。
4バルブ、3連キャブ、2カムシャフトの頭をとって432。
高性能の証を表現したネーミングでした。
当時の高性能エンジンを搭載したフラッグシップとして登場したZ。
廉価版のZが車両価格84万に対して182万と高価なモデルでした。
当時の高性能GTとして有名なトヨタ2000GTにも採用されていたマグネシウム合金製のホイールもその高性能モデルの証でした。
プリンス自動車と日産自動車が合併して間もない頃、旧プリンスからのこだわり派からは、Zに搭載することに異論を唱えたという話もあったようですが・・
S20エンジンはプリンス時代に開発された高性能エンジンの証であり、社員の誇りだったもの・・プリンスの人からするとそのエンジンは、プリンスの車であったスカイラインだけに載ってほしいという思いを持つ人がおられたのだと思います。
それだけの思いを持つS20は、やはりあらためて、こだわりの名機だったのだと思います。
3気筒ごとに束ねられたエグゾーストマニホールドは、ステンレス製の等長(タコ足)でGT-Rと同様にそのまま2本の排気管でフィニッシュするもの。
GT-Rと異なるのは、タコ足以降の排気管の曲げ方で、音的にはZ432の方がやや高音質だと説明がありました。
なるほど確かに、このZ432のS20エンジンが奏でるアクセルを煽った時の音は、私が想像していたものよりもやや甲高い高音域にもパンチが感じられるキレのあるものでした。
個人的に思い出したのが、私が以前乗っていたBMW M3のエンジン&エグゾーストサウンド。
BMWのS50エンジンは、6気筒、6連スロットルで一般的な6気筒エンジンとは違う、キレのあるサウンドが魅力でしたが、その音質は少しかぶるところが感じられました。
電子制御なし、ソレックスキャブの古典的なエンジンとの違いはありますが、その本質は、どこか共通したものがあるのかもしれません。
あらためて、このエンジンサウンドを聴いて伝説のエンジンであることの思いが強まりました。